加納から君へ

「実は今月いっぱいで退職して島を出ることになりました」

店も3、4年やってるとそういうアレはちょいちょいあって、特に新卒で都会から来た若い子らほどご丁寧に挨拶に寄ってくれたりするんやけど、まぁさ、飛行機1時間ちょいでどこでも行けちゃうこんな小さな国で別れなんて大げさなことはないからさ、また会おうぜっつーか遊びに行くから今度は泊めてな。

会社を辞めようと決心するまでに色々悩んだと思うし、そっから退職届を出すまでの時間は良いものではなかったかもしれんけど、円満退社とか都市伝説やから気にせずさっさと次行こう。

そこそこ以上の大学出とったら、他のヤツらはだいたい大手で正社員でマンション買って…

それはそれで、でもそれだけちゃうでってのは俺見りゃわかるっしょ?

そもそも新卒でなぜか小豆島の時点で大通りからは程よく外れてもとるわけやから、今さら最短ルートに戻ろうとせず、ガラガラの下道を出来るだけ気ぃ良く流してみるのもありやと思うで。

急いだり結論付けたりするのは目的地が決まってからで充分。

25歳やそこらでそれを見つけて30歳で到着しちゃったら、逆にそっからの人生ヒマしそうじゃね?

 

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入社4年目26歳の時、神戸駅から大阪駅までの移動中昨日とまったく同じ電車に乗っていることに気付き、なんやこれ、俺の光り輝く二十代こんなことしとったらあかん!

と急にテンション上がってきちゃって、営業ドタキャンして午後休取って梅田でチャリ買ってスーツのまま西宮まで乗って帰った。

これやこれ、この感じや。

ほんでその後「年収を半分にしたらロックできるはず」という我ながら天才的な仮説に基づき辞表を提出。

縁もゆかりもない東北の山奥にノリで引っ越し、その集落にあった廃校をカフェにしてみようと生まれて初めてコーヒーを淹れ、4年後「山の次は海♪」なる安直な理由で来てみた小豆島にはコーヒー豆屋がなかったので自分で焙煎し店を作って売り始め、そしてそこに君がふらっと豆を買いに来て、今日の関係に至る。

嗚呼なんたる偶然まぐれたまたまの出会い!

ラッキーやったな!

あとご覧の通り人生けっこうなんとでもなる笑 から、また会う日までお互いせっせとネタ作りに励みましょう。

二十代、やりたいことやらずに何をやる?